石村研究室の紹介(高専時代の紹介文から)

 どのような研究をなされていますか?

私の専門分野は,地球のことや環境問題をあつかう「地球科学」です.いわゆる地学というとわかりやすいかもしれませんが,一言で言うと,地球環境の変化を知るための研究です.

・・といっても,地球科学の分野はとても総合的な研究分野でして,私自身も地質学・古生物学(地層や化石の研究)から研究をスタートしたのですが,海の調査をしたり,化学や生物を学んだり,分析機器を作ったりコンピューターを駆使したりする研究までやってきました.

 具体的な研究はどのような内容でしょうか?

もともとは有孔虫(ゆうこうちゅう)という海の中にすむ微生物の研究を専門にしていました.この有孔虫は,貝やサンゴと同じように炭酸カルシウム(CaCO3)の固い殻を作るのですが,海の底に沈んだ後に化石として地層の中に残されます.マリンスノーというのを聞いたことがあるかと思いますが,これは有孔虫をはじめとする小さな海の生物のかたまりでして,海の底に沈んで化石になっていくわけですね...
そして長い長い年月を経て,私たちの目にふれるわけですが,この有孔虫の化石の殻の化学組成を調べると,彼らが生きていた時代の地球の様子を知る手がかりになります.

何万年も,何百万年も,大昔の地球の変化の姿を復元することが出来るようになるのです.

でも昔を知ることができるだけではありません.これまでの地球の変化を調べることによって,将来の地球がどう変化していくかを予測するヒントを見つけることにつながります.

・・・で,私の研究ですが,

海洋生物の殻に記録された環境情報をよみとる研究をしています.海洋生物の炭酸カルシウムの殻の中には.炭素(C)と酸素(O)が含まれますが,その炭素と酸素は環境の違いによってわずかに重さの違いがでてくることが知られています.これを安定同位体比とよびます. 炭素と酸素の安定同位体比は,海水の塩分変動・水温変動などを記録するので,地球の温度の歴史や温暖化メカニズムの解明などの基礎情報として重要で,世界中で活用されてきました.私の研究室では,その安定同位体比を細かく分析するための分析機器を作って活用し,当時の海の様子や地球の気温を知る「ものさし(環境指標といいます)」を作り,この「ものさし」を使って昔を知ろうという研究をしています.

基礎研究なので,産業や製品開発などにはなかなか直結はしません.ですがこの新しい分析装置は地球科学だけでは無く,魚の研究や,生物学分野への研究へも応用が広がっています. 

 研究をしていて楽しさや、やり甲斐を感じるのはどういった時ですか?

開発した分析機器をつかった安定同位体比の分析は,世界のどこでも実現されていないハイレベルの分析技術です.この分析機器を駆使して,国内・国外の方々との共同研究を進め,今まで誰も知らなかった分析結果を出しています. 分析自体は大変なこともありますが,未知の事柄へのアプローチ自体はワクワクして楽しいものですね. さらに,研究結果が具体的に何かの役に立つときはもっと嬉しいものです.

でも一方で,ほとんどの分析結果は簡単に理解できる結果とは限りません.時として予想から大きく外れる分析結果を得ることもあります.こういうときには頭を抱えてしまいます.

ですが,この「予想を外れる結果」にこそ,想定もしなかった新しい発見が隠されていることがあります.予想を外れた原因やその理由が見つかったとき,そして,新しい現象を捉えることが出来た時,この時が一番やり甲斐を感じるときかもしれません.興奮するという表現のほうが正しいかな.

 これまでの研究の流れは

これまでの研究を通じて,基礎研究に加えて,分析装置やソフトウェアの開発,共同研究のとりまとめなど,個人商店のような状態でコツコツやってきました.時間と手間はかかりましたが,研究の質は胸を張れるものだとは思っています.一方で,多くの方々との出会い,そして御指導や御助言が無ければ為し得なかった研究です.感謝の気持ちとともに,また多くの出会い(人との出会い,研究成果との出会い)があることに期待しつつ,これからも新たな道を模索していこうと思っています.

 

 科学に興味を持ったきっかけは何ですか。

実は科学に興味を持ったきっかけ..という記憶はありません.

工作が好きだったことと,考えると言うことは好きでした.人って不思議だなと思ったのがホントに興味を持つようになったきっかけのような気もします.

 子どもの頃、好きだったもの、興味関心があったもの、熱中していたものについてお聞かせください。

もの作りやものいじりが好きで,壊れた機械などを分解したりしていたようです.北海道出身ですので,中学生の時はスキーに熱中していました.高校では山岳部とか.(えーと,最近だと去年はAngry Birdsにはまっていましたが....)

 高専の教員になろうと思われたきっかけなどはありますか?

正直なところ,数年前までは高専の事はよく知りませんでした.ロボコンのことと,理系が得意な専門的な学生が集まっているところ・・というぐらいしか.ですが 以前研究所で働いていたときに,高専専攻科から東大の大学院に進学した学生を教えていたことがありました.その学生に高専の事をいろいろ聞いているうちに,高専の事を知るようになり, そんな時期にたまたま茨城高専の教員公募を見つけたので応募したところ採用されて今に至るわけで.これも一つの出会いですので,出会いは大切に,出会いを楽しんで行きたいと思っています.

 授業の様子についてお聞かせください。

授業はどちらかというと学生とともに楽しみながら進められているのではないかと思っています.知識を吸収すること(インプット)も大事ですが,私が大切にしたいのは,知ったことを元に関連項目への想像を膨らませたりしたり,その考えを表現すること(アウトプット)です. 特に環境科学分野は知識だけではなく哲学的な要素も重要になります.そのために,様々な視点や考え方を客観的に紹介したり,それぞれをどのように捉えるか,そして型にとらわれない考え方を示したりすることも意識しています.

 

 学生へのメッセージ、アドバイスを

研究室のモットーは「前例はつくるもの」です.今までにない経験をする時、未知の世界でやって行く時、躊躇しがちですが,信念を持ってチャレンジすることも大切だと思っています.前例が無いから・・ではなくて,前例というのは誰かがつくってくれたものですので.私たちも良い前例をつくっていきたいと思っているところです.みなさんも新しい世界に挑戦していってください.

そして学生の皆さん,あなたはあなた自身の一番のプロデューサーです.何よりも自分を活かすための活動や選択をしてあげてください. どんな場所でも,どんな状況でも,あなたを成長させたり活かしたりできるのはあなた自身です.